2010年3月15日 さくら田 老舗の矜持

a0064654_18242581.jpg日本出張。恒例の義母との食事であるが、今回はたまにふぐを食べようということにし、リサーチの結果、麻布十番の『さくら田』に決めた。

暖簾をくぐり引き戸を開けると、昭和の小料理屋といった空間に、物腰の柔らかい女将が迎えてくれる。開業して40年というから老舗と言っていいだろう。壁にふぐさし、ふぐちり、ふぐ唐揚げ、ふぐにこごり、白子焼き、すっぽん鍋などの品書きを書いた木札が下がる。座敷は、手前の小上がりと奥と合わせてたぶん12人分ほど収容できるぐらいか。カウンターもあるが、使われることは稀なのだろう。

a0064654_18245492.jpgふぐ刺しから。2人用なので、大皿ではないが、小ぶりの皿に花が咲いたような刺身。要の位置にはふぐ皮刺しと長く刻んだ浅葱。
ポン酢に浅葱と七味を散らしていただく。ふぐ刺しの特徴は、やはりこの歯ごたえだろう。しっかりして味わい深い。皮刺しは歯ごたえが更に強くなる。噛んでも噛んでもなかなか柔らかくならないぐらいだ。

ここの売りは、天然とらふぐ。毎日、予約が入った分だけ九州から空輸するのだそうだ。したがって、予約なしの客は取らないという。どんな常連でも、急に来られても材料を仕入れていないのでどうしようもないのだそうだ。なるほど。

a0064654_18254986.jpgそんな話をしながらひれ酒を傾ける。これが、ふぐ屋のお楽しみのひとつだ。香ばしく焼いたふぐひれを入れた茶碗に、ちんちんに熱くした日本酒を注ぎ、蓋をする。アルコール分が蒸発して蓋の下に溜まったところにマッチの火を近づけ、ボッとアルコールを飛ばす。ほのかにひれの色が移り黄色味がかった酒は、強烈な香りが立ち、陶然とさせるものがある。女将によると、ここのひれは、天日で干すので生臭さがないのだそうだ。ははぁ、そうですか、という感じ。


a0064654_18262476.jpg続いて白子。どうやって召し上がりますかと聞くので、焼きでお願いする。これが、実は、今日一番楽しみにしていたもの。わざわざ、コースに入っていないのを予約しておいたのだ。ピンポン玉を一回り小さくしたような白子が6個。マシュマロのように焼き跡が少しついている。塩が軽く振ってある。香りは、ほとんどない。あっても極々仄かなもの。しかし口に入れるとなんとも艶めかしい芳香を感じることができる。歯に少し力を入れると、焼いてできた薄皮が頼りなくも割れ、いよいよこってりとした白子が口腔に広がる。あぁ、旨い。まさに至福の時だ。

続いてふぐちり。鱈のように脂臭くなく、かといってさっぱりし過ぎてもいず、十分に滋味のあるしっかりした身だ。骨付の部分が多かったのは、やはり天然ものだからなのだろうか。地鶏とブロイラーの体格の違いが頭に浮かんだ。この、骨についた身が滅法美味い。ここで女将の注釈がまた入る。灰汁が出ないのは、天然ものだからなのだそうだ。ははぁ。

ふぐは、とても値が張る。面白いのは、それが客と店の間の暗黙の了解に止まらず、女将が堂々と会話に出すことだ。ここは、お高い、と言いながら、それをもって店の格を誇っているようなところがある。それを嫌味に感じるかどうかは、文字通り、客の側の懐の深さにかかっているようだ。女将は、高飛車ではまったくない。むしろ物言いは穏やかで丁寧だ。ただ、素材、料理の質、サービスの内容に絶対的な自信とプライドを持っていることははっきりと感じられた。この種の店の矜持といったものをエンジョイできるかどうかは、客の側の経験や度量にかかっているのかも知れない。それがまた、老舗を楽しむということなのかも知れない。

a0064654_1827257.jpg料理のほうは、最後の雑炊にかかる。残った白子も汁に溶かし入れ、ご飯、卵を割りいれる。少し蒸らして蓋を上げると、ほわーっと湯気が上がる。茶碗によそってもらってありがたくいただく。うーん、出汁がよく出ている上に白子のコクも甘みを倍加しているようだ。文句なく絶品中の絶品だ。

お茶を淹れてくれながら、女将が語る。芸能人や政治家も来る。売れる人、偉くなる人はなんとなくわかるのだそうだ。ヒロミ君(郷ひろみ)、山口百恵など、来たときにオーラを感じたのだそうだ。ふーん、このトークも女将の得意の手法なのだろう。

お勘定は、予想はしていたものの、ちょっと心拍数が上がる数字が書いてあった。まぁ、何年かに一度のこと、義母も喜んでくれたし、僕もいろいろな意味で楽しんだので良しとしよう。

ちょっと養殖ものを食べ比べて違いがわかるかどうか試してみたい気もした。a0064654_18273077.jpg
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by gomanis | 2010-03-16 18:27 | 美食


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