2008年8月17日(土) チワワ鉄道の旅 Vol.2 El FuerteからPosada Barrancasまで

駅には、旅情を誘う独特の空気が流れているものである。日本の駅だけでなく、今まで旅して来たバンコク、クアラルンプール、ブリュッセル、ベネチアどこでもそうであった。あぁ、ここから汽車に運ばれてよその土地へ行くのだという興奮があった。学生時代を過ごした中国では、田舎の小さな駅もたくさん行ったが、程度の違いこそあれ、同様の雰囲気はあった。駅舎という特殊な空間に入った瞬間から、その土地から切り離され、移動するのだ、という気持ちになったものである。

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チワワ鉄道の駅には、残念ながら、それが、ない。皆無である。たとえばEl Fuerte、駅舎は、7-8人も入ればいっぱいになる粗末なもの。乗客は、皆、ホームやレールの周りで適当にたむろして待つ。炎天下、湿度も高い。ま、メキシコらしいといえばメキシコらしいか。

そして、8時半に来るはずの列車が10時になっても来ない。だいたい、駅のどこにも時刻表がない。当然のことながら、何が起きているのか、遅延した列車はいつ来るのか、アナウンスもない。こうした事情はガイドブックに書いてあって、乗客(ほとんどが外国人と思われる)もあまり騒がない。僕も知識としては知っていたが、いざ、その場面になるとやはり腹が立つものだ。

さらに待つこと30分ほど。ようやくお待ちかねのチワワ鉄道が姿を現した。ゆっくり、ゆっくり近づいてくる。

指定席でもない。切符を片手に列車に乗り込み適当な場所を探して座る。文句ばかり言ってきたが、乗ってみれば、中は、ゆったりとしていて、椅子も立派で柔らかく、悪くない。冷房も効いている。

a0064654_12394881.jpga0064654_12402397.jpg発車してしばらくは、El Fuerte付近の平らな熱帯雨林のようなところを進んでいく。なかなか景色が変わらない。そう、チワワ鉄道は、スピードが異様に遅いのだ。ロス・モチス-チワワ間650Kmを15時間かけて運行しているということだから(時刻表通りに走ったとして)、なんと時速43Kmだ。日本の在来線の特急は、僕の子供のころの記憶によれば遅いものでも時速70Kmぐらいでは走っていた。しかも途中駅にたくさん停まってである。ちなみに新幹線は平均時速230Kmを超える。スピードの是非については、後述。

さて、午後になり、ようやく山間部に入る。ちなみにこの区間、乗るなら右側の座席が良い。山が左から迫っており、左側の席についた僕らは、ほとんどの時間、窓のすぐ外にある草や木を眺めていた。その点、右側は時々視界が開け、川や谷が見えたりする。

山は、切り立っている。そして緑が豊かだ。左側の席からでも、時々山の頂が仰ぎ見える場所があり、断崖に張り付くように生えている木々が緑の葉を元気につけているのが見えた。

a0064654_1241773.jpg車内は、時々車掌が回って来る。マリアッチもそうだが、あんな感じで、ちょっと前時代的なフォーマルな格好をしており、滑稽だ。

腹が減ったので、食堂車へ行ってみる。地球の歩き方には、ヨーロッパ風のしゃれた食堂車の写真が載っていた。
あれ?

カウンターが一個、周りに食べるためのテーブルがいくつか配置されているが、食堂車という雰囲気からは程遠い。この理由は、翌日明らかになるのだが、この時点では知らなかった。仕方がないので、とにかくカウンターで、何か口に入れられるものを物色すると、なんとカップ麺があるではないか。珍しく、カミサンがこれにしようと言った。僕とてラーメン大好き人間だ、異論のあろうはずがない。


a0064654_12414417.jpga0064654_12421761.jpg『Dos Maruchan, por favor。』これで通じる。メキシコでは、マルちゃんは、カップ麺の代名詞になっているのだ。しょうゆ味にチリがたくさん入っている。結構なピリ辛で、僕好みの味だ。メキシコ人は、これに、更にチリパウダーを山ほどかけて食べる。チワワ鉄道は、とても揺れが激しいので、こぼさないように気をつけながら麺をすすり、スープを飲む。美味かった。


列車は、山間を縫うようにゆっくりと登っていく。川の向こう岸にもう一本の鉄道が見えたなどと思っていると、大きくカーブを切って、実はそこがレールの続く先だったことに気がついたりする。今、通り過ぎてきたレールが、川の反対側の眼下に見える。標高が上がったのか、霧が出たり、急に雨が降ったりする。

午後5時をまわった頃か、ようやく今日の目的地、Posada Barrancasに到着。Hotel Miradorにチェックイン。ちなみに、“Mirador”は、展望台の意味だ。


a0064654_12424612.jpg名前どおり、ホテルは、銅峡谷(Barranca del Cobre)を望む断崖絶壁の上に建っている。食堂の前が広いテラスになっており、ここからの眺望は素晴らしいの一語に尽きる。眼下に広がる深い谷、谷底に平がる緑の盆地、そして更にその先に続く別の山々。遥か対岸の山の岩肌が、雲間から差し込む夕日に光っている。テラスに面したバーで、テキーラで乾杯。待たされた駅のことも、長かった列車の疲れも忘れ、息を呑む大自然の景観にひたすら見入っていた。

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by gomanis | 2008-08-29 12:46 | 一般


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