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2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝

2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_723759.jpg2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_7222420.jpg

この歳になると(どの歳かは言わないが)、いろいろなところへ旅行し、奇岩絶景の数々を観てきたが、イグアスの滝は、その中でも5本の指に入る、荘厳な景観だった。しかも、僕のように、苦しい思いをしてまで凄いものが見たいと思わない、ハードシップを極端に嫌うものぐさにも簡単にアクセスでき、楽しめるという意味でも、一級の観光地だろう。

川ができるずっと前、今を遡ること1億8千万年前から2億2千年前、熱く溶け出した溶岩が赤く、黒く、燃えながら流れて来て、このあたりで冷えて固まった。その溶岩流の厚さ、数十メートルにも及んだらしい。更にその後にもう一度溶岩が流れ、今度は、少し手前で冷えて固まった。これらの溶岩流の固まった先端は、切り立った崖のようになった。やがてそこを流れるようになった川は、2段の溶岩の階段から空中高く放り出され、地上めがけて落下し、瀑布を形成した。これが、イグアスの滝である。

地理的な位置関係を簡単に説明しておこう。イグアスの滝は、イグアス川の、ブラジルとアルゼンチンの国境上に約4kmにも渡って分布する大小さまざまな滝の総称だ。川は、南東から北西方向に流れ、大雑把に言って、滝の北側がブラジル、南側がアルゼンチンになっている。この川は、滝の下流で、やがてパラグアイ国境でパラナ川と合流し、南へと方向を変え、アルゼンチンを縦断して、大西洋に注いでいく。

2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_7234190.jpg2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_725065.jpg1日目は、ブラジル側での観光。滝の下流の方から、川を右手に見ながら遊歩道を上って行く。木立を抜け、視界が開けると、すぐに巨大な滝が目に入ってくる。まだ、向かって左手のはるか上流の対岸なのだが、遠目にも、豪快に水煙を立てながら、柱のように太い滝が、川面に突き刺さるように落ちているのが見える。遊歩道は舗装された幅2メートルほどの立派なもの。ここを上ったり下ったりしながら、ところどころに用意されている展望台から、さまざまな滝の表情を眺めていく。日本の華厳の滝のように小川の先から零れ落ちたような細いものもあるが、帯のように、幅広く荒々しく落ちていくものがほとんどだ。中でも最も有名なのが、一番上流の懐深くにある“悪魔ののど笛”と呼ばれる大瀑布。遊歩道を上って行くにつれ、どぅっという音とともに細かい水しぶきが宙を舞い、その中を歩くようになる。その上、この日は、ちょうどそのタイミングで大粒の雨が降り始め、水しぶきなのか、雨なのか、区別もつかないような状況になった。遊歩道の終点には、川の中ほどまで突き出した、最後の展望台があるのだが、ここは、悪魔ののど笛に下側からもっとも近づける地点。展望台は、ちょうど巨大な閻魔大王から見下ろされ審判を待つ被告席の位置。その轟音、水流によって生じるすさまじい風圧、そしてその風の運ぶ横殴りの水しぶき、それに天から降ってくるスコールで、一分間も立っていられないほどだった。さすがは、世界3大瀑布のひとつ。その圧倒的な存在は、自然の驚異としか言いようがなく、今まで感じたことのないものだった。

その感動も覚めぬ間に、再び車で少々下流側に戻り、今度は、川面からボートで滝を観に行く。ボートは、太い丸太棒のようなゴムのチューブ2本の間に板を渡し、その上に椅子をおいたような構造のもの。真ん中に運転席があり、濁流に逆らえるだけのパワーをもった強力なエンジンが積んである。濡れてもいいように水泳パンツにTシャツを着、頭からすっぽりかぶるビニール合羽で完全武装。その上からオレンジ色の救命胴衣を身につける。鏡のような川面を滑るように出発。ボートの先端が浮き上がるほど、小気味よく飛ばして行く。やがて、滝が近づいて来ると、流れが目に見えて急になり、川底の石にぶつかって大きな波がザバーン、ザバーンと立つようになる。そこらじゅうで渦を巻いているのが見える。そこを、スピードを緩めることなく、右に左に波の上を跳ねるように登っていく。昔、オーストラリアでやったラフテイングを思い出した。ボートは、川面を叩くたびに、パーンっと空中に跳ね上がり、一瞬後には川面に落ちる。そのたびに水しぶきが盛大に上がり、ボートの中まで入って来る。乗客は、皆、大喜びだ。ボートは、前述の悪魔ののど笛と、3の滝の下流の合流する、川面が再び静かになる開けた地点で、一時休憩する。休憩と言っても、要は、流されない程度にエンジンを回しながらホバリングする感じだ。ここで、記念撮影。ここからは、右手に3の滝、左手には、濛々と水煙を上げる悪魔ののど笛に続く、深い森に覆われた峡谷が見える。数分間の休憩のあとは、いよいよこのボートトリップのクライマックス。再び勢い良く滑り出したボートは、果敢にも悪魔ののど笛の方向に向かっていく。水流はいよいよ激しさを増し、上下動もその落差を増していく。右に、2の滝の下流の小さい滝が3つ並ぶところまで来て再度ホバリング。さすがにここから上へは行けないようだ。悪魔ののど笛が、はるか彼方に威容を現す。また、そこに至る峡谷が、幻想的に懐の深さを見せつける。最深部では、中央に悪魔ののど笛が屹立し、その左右にも大きな白い滝を従え、Uの字を書いて3つの方向から濁流が落下しているのだ。これこそ大瀑布中の大瀑布である。イグアスの滝は、この最深部から始まり、向かって右手に2の滝、3の滝と続いていく。その総延長が4kmなのだ。すごい。

ここからはお遊び。ボートは右側の滝に頭から突っ込んでいく。滝を頭から浴びるわけだ。こんな小さな滝でも真下に入るとさすがにすごい力を感じる。完全武装したはずだったが、水は首のちょっと開いているところからどんどん入って来て、全身びしょぬれになる。これをご丁寧にも3箇所の滝で繰り返し、帰途に着く。

2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_726483.jpg2006年12月24日(日)・25日(月) イグアスの滝_a0064654_7275226.jpg2日目は、アルゼンチン側からの観光。ブラジル側の観光が滝を正面から観るのに対し、アルゼンチン側は、滝の上流、ないし、真横からみることになる。トロッコ電車で、遊歩道の始まる地点まで行く。谷あいを下り、下流方向から攻めていく。中規模の滝をいくつか真横から眺めたあと、再びトロッコに乗り、メインイベント、悪魔ののど笛を見に行く。イグアス川は、いくつもの中ノ島に分断され、また合流しては分かれたりしながら、のんびりと低いほうへ低いほうへと流れていく。遊歩道は、基本的には細かい金網でできた歩道。これが、ところどころ橋になって島の間を結んでいる。川幅は大きく広がっており、いくつもの島を通過していく。川底は浅く、真夏の日をきらきらと反射している。浅瀬には、羽を休める鳥や、ワニの姿なども見られる。のどかな光景だ。しかし、歩を進めるにつれ、地鳴りのような、不気味な音が近づいてくる。滝が近いのだ。

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悪魔ののど笛。僕は、いまだかつて、こんなに大量の水が、同時に動いているのを見たことがない。これからもないだろう。穏やかな川面が、ある一点を境に雄叫びを上げて狂いだす。がくんと落ちたと思うと、褐色にやや緑が入ったような色の水が、うねるように盛り上がり、白い泡を立てながら、後から後から巻き込むように轟音を立てて落ちていく。太い太い帯のように、同時に、何十メートルにも渡って、想像を絶する量の水が落ちていく。その異様な光景は、絶対安全とわかっているステージから見ていても、ひょっとして吸い込まれるのではないかと恐怖を覚え、足が竦むほどだ。インディオが、地獄の入り口という意味で、畏怖をこめて名づけた悪魔ののど笛。今まで漁船の操作を誤って落ちた人などいるのだろうか。落ちる先は、煙ってまったく見えない。ひょっとして、上半分ぐらいしか見えていないのではないか。緑褐色の水の帯が、巨大な力を放ちながら、圧倒的な存在感をもって落ちていったはずなのに、行き先が見えない。はるか下流を見やると、水煙のやっと収まったあたりに、薄っすらと再び川面が見える。それは、白い波頭を見せながらも、もはや、狂乱している姿ではない。穏やかに平和に海に向かって旅を続ける姿である。
by gomanis | 2006-12-29 07:31 | 一般


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